障がい者がきっと世の中を変える – NPO法人まあるい心ちゃれんじどの応援団
2017-09-07

障がい者がきっと世の中を変える

  • 人生は突然に

SKMBT_C28017041311580_0002平成2年元旦。二女が誕生しました。障がい者の様々な課題に取り組まなければならない、しかし自分自身の人生と真剣に向き合う機会を与えられた「瞬間」であったと今は思っています。もう27年も前のことですがしかし現在進行形であります。二女が知的障がいということで必然私の課題も知的障がい児・者の生活の在り様を考えることでした。現在、NPO活動で知的・身体・精神三障害に対応した就労継続支援A型と一般就職を目指す就労移行支援の福祉サービスを提供していますが、様々な課題に付き当たり乗り越えてきた経験が活かされていると思っています。 私どもの法人では、障がい者の就労支援として洋菓子やパン、弁当の製造販売を行っています。洋菓子やパンはとてもおいしいにおいを周りに漂わせ、周辺も巻き込んで幸せ感に満ちあふれる、まさに障がい者にぴったりの業種だと思います。

 

・二足のわらじでスタート 

 

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 平成16年3月、NPO法人を立ち上げた当時は10畳程度の小さなスペースでした。知的障がいの男女二名と障がい児の母親が作るシフォンケーキの美味しいお菓子屋「レネー」として皆さんに知っていただき初年度から売上は一千万円を超えました。レネーとは、英語のリニューアルの原語であるラテン語です。お菓子屋で働くみんなを見て世の中が少しずつ変わっていくようにという思いを込めています。 この思いが通じたのか、年々大きくなりいよいよ新たな工房に移らないといけないなあと考えていたところに、土地と建物を提供してくれるという話が舞い込んできました。建築後は家賃を払わないといけないのですが当時払っていた家賃とさほど変わらない。その頃の私は二束のわらじで、昼間は公務員として働きアフターファイブにNPO活動として関わっていたのですが、新工房の建築工事や資金のねん出など業務のボリュームを考えると二足のわらじも限界になりました。NPOに専念するかどうか、まだすねかじりの子どもがいる中で生活が大丈夫かと周りから言われると心が揺らぎました。 素人なりに食品工場の厨房設計をかじってみると別の「恐れ」を感じ始めました。これまでの厨房は喫茶店を改造していたので製造工程の導線など全く考えてなく、ただ人が小さな空間でうごめきながら作業をしているような状態でした。それが、大きな空間で導線を考え、食品衛生管理を徹底した厨房設計をしなければならない。しかし、これまでと全く違った広々とした工房内でみんなが右往左往するのではないかという「恐れ」を感じたのです。

 

  • 自分の進む道を見つける

 

 rene-sそんな折、食品安全マネジメントシステムの国際規格「ISO22000」の存在を知りました。調べてみると高知県内の食品会社でまだ一社しか認証取得していない難易度の高い認証制度だと。しかし、食品に関わるすべての項目をクリアすることで安全で安心な食品をお客様に提供できる、その「道しるべ」となる制度であることがわかりました。残念ながらいまだに障がい者施設の商品に対しては偏見があります。その偏見に対して堂々と反論できるようになるためにもISO22000認証取得に挑戦する価値はある。私の腹は決まりました。退職まで7年を残して第二の人生を歩むことにしました。 平成24年4月に新工房に移転しました。移転までの間に様々なルールを作りましたが、実際の工房内での動きに合わせて修正を加えなければならず、実に二年半の歳月がかかりましたが平成25年12月に遂に認証取得しました。高知県内ではもちろん西日本の障がい者施設でも初めてのことだとお聞きしています。 「ISO22000」は認証取得で終わりではなく始まりです。働く障がい者が施設内でのルールを守り、衛生管理を行い、定められたレシピで忠実に製造することはもちろんですが、その工程をすべて記録として残さなければなりません。毎日この作業を繰り返すことでさらに改善し技術を確かなものにして自信を付けていきます。一人ひとりの能力差はあります。時間のかかりようも違います。しかし、ルールから外れなければ終点は見えます。まさに「ISO22000」は食品製造に関わる障がい者の道しるべといえます。

 

・障がい者よ!目覚めよう

 

新聞合成  平成27年から高知県に災害弱者支援センター(仮称)設立のための「脱!災害弱者運動」を展開しています。きっかけは高知県は南海トラフ地震の直撃を受ける地域であるにもかかわらず、障がい者の関心はとても低いと感じました。災害時に漫然と救助を待つ、いや「死を覚悟」するのではなく、自分の命は自分で守る「自助の力」を障がい者こそが身に付けなければならないとの思いが強くありました。それは、「ISO22000」という国際規格を認証取得したことで今や他に負けない商品を作り、首都圏にも販売網を広げようとするまでに成長した工房で働く障がい者の存在が大きいと思います。 苦難に遭った時、簡単にあきらめず踏みとどまるためには何らかの「道しるべ」が必要です。障がい者には障がい者のための道しるべがないといけません。災害に関しても同様です。救援が来るまでの身の守り方も大事ですが、自分の身を守るだけでなくさらには他の人たちの支援をすることにまで目を向ける障がい者が一人でも増えたら大きく世の中が動くのではないかと期待しているのです。

 

・人の金はあてにしない

 

SKMBT_C28017041311580_0008  支援センター経営のバックアップについても考えなければなりません。コミュニティ・ビジネスとして成り立たなければ補助金・助成金頼みの不安定な運営になります。「―運動」をスタートしたと同時に、障がい者が作る首都圏をターゲットにした商品開発を始めました。

ISO22000のルールに則り食品衛生面の土台をしっかりとしたものにして、次にはこれまでとは比較にならない売上を上げる新商品。この売上の10%を支援センターの運営に活用すると決めています。平成29年2月その商品が完成し、高知ラスク、高知ポモドーリ・セッキ(セミドライトマト)と商品名を付けました。現在日本全国での販売に向けて各地の物産展に参加しています。

http://renee.theshop.jp/

http://renee.theshop.jp/

 

 

 

 

 

 

 

 

・防災は災害弱者には重い課題  

 

SKMBT_C28017041311580_0014では災害弱者支援センターは何をするのか。昨年10月から三回にわたってワークショップ(WS)を実施しました。在宅重度障害児の親・当事者・支援者・防災・福祉担当の行政関係者等、幅広い人々が集まり、今どういう現状で何に不安を感じているのか率直に意見を出し合いました。災害に関する議論は支援「する側」と「される側」という対極の構図になりやすいと思います。

 

SKMBT_C28017041311580_0015しかし支援「される側」だと最初から思ってしまうことが近年よく聞かれるようになった「防災過保護」という状況を生み出しています。

 

 

 

SKMBT_C28017041311580_0016WSで障害児の母親が、「毎日の生活で精一杯で、その上に災害時という重い課題を考えないといけないと思うと気が重くなってしまう」と言いました。 また訓練にも何度か参加したものの津波タワーの傾斜の強いスロープを上がれず途中でリタイアしてしまい、もう参加したくないという意見も聞きました。

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あきらめ敢えて考えないようにしている災害弱者と「防災過保護」とは全く別物です。「防災過保護」の人たちへのアプローチと障がい者などの災害弱者へのアプローチは明確に異なるのです。   ではどうすれば災害弱者に防災への関心を呼び起こせるのか。

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災害弱者のための「資格制度の創設」

 

 17.9.5 一つには目標設定が必要だと思います。具体的には「資格制度の創設」です。防災に関心を持ち活動をしようとすれば「防災士」という資格があります。防災士を取得できる人であればぜひトライすればよいのですが知的障がい者の場合は少しハードルが高いかもしれませんので、それに替わる資格創設が急務です。行政や大学などに創設をお願いしています。将来的には支援センターが事務機能を引き継げればと思います。何をするにも目標があるのとないのでは全然違います。 次に、創設された資格を取った人たちで支援センターの企画を考え実施するのです。ターゲットは「中学生以下の児童生徒」。高知は30年以内に震度6弱以上の地震発生率が74%と発表されています。つまり、現在の小・中学生が将来防災の担い手になる可能性がとても高いと考えられます。新設された資格にチャレンジして合格した車いすの人や知的障がい・発達障がい・育児中のお母さんやボランティアの人たちがアイデアを出して小・中学生に防災教育を支援センターで行う。学校では防災教育を徹底しているのでレベルはかなり高いのではないかと思われます。それなりに面白い内容でないと関心を持ってもらえません。だから必死で考えないといけません。しかしここで注目すべきは、災害弱者といわれる人たちが「脱!災害弱者」を目指すことです。すごいことだと思います。最初に言ったように、自分の身を守るだけでなくさらには他の人たちの支援をすることにまで目を向ける障がい者が一人でも増えることで私は大きく世の中が動くのではないかと期待しているのです。災害だけでなく、世の中の在り様を大きく変えるだけのパワーに育っていくのではないかと思うのです。自助の力があってこその「共助」であり「公助」だと思うんです。平成31年3月を目標に災害弱者支援センター(仮称)を必ずや設立したいと思います。皆さん応援してください。 文責 杉野 修


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